突発「咲-SAKI-」ss
空びん「じゃあこれ一話ね! 二話もあるかもね。エロエロかもね。」
咲×和
彼女の柔らかな髪が私の上でくしゃっと広がり、それがいちいち顔に当たってくすぐったい。ほのかに上気した頬。彼女は、笑っている。
「すみません。髪の毛、邪魔ですよね」
そう言って、原村さんは上半身をふって後方に長い髪を移動させる。
どちらかというと、今の原村さんの体勢の方があれなのだけれど。麻雀部部室の一角にあるベッドを、仲良く二人で軋ませているこの状況は一体全体どういうことなのだろう。
「あの、熱くない?」
隙間なくくっついているため、先ほどからじんわり背中やお腹が湿ってきていた。シーツも夏仕様とはいえ、体温が保温されて若干暑い。
「よくわからないです」
すぐに返ってきた単純でそっけない言葉。よくわからない。どういう意味なのだろう。原村さんは少し口元を緩めて、微かに笑った。沈黙が流れる。
「あの、あの……」
「はい、何でしょう?」
「私が寝ている間に何かあった?」
「……そうですね、とっても素敵なことが。今、現在もですが」
原村さんの豊かな胸が私のささやかな胸を押しつぶしているこの状況に、一体どれほどの価値があるというのだろう。
ああ、これはただの被害妄想なのだけれど。私は今ひがみっぽくなっているのかも。
「あなたは知らないでしょうけれど」
何を?
「知らなくてもいいんです」
私の顔を見て、原村さんが変な笑い方をする。眉毛を吊り下げ、頬は少し痛そうだった。
「知って欲しくないですから」
私には、彼女がどうしてそういう風に笑うのか検討もつかなかったし、なぜこういう行動にでたのかもよくわからなかった。
わからないことだらけで、頭が暑くてお腹が暑くて背中がちょっとむずむず。でも、起き上がろうにも彼女は驚くべき腕力で私を押さえつけていたのだった。
「っくしゅん」
突然、耳の横でそんなブレス。寒い、という呟きを私は聞き逃さなかった。
「原村さん、もしかして風邪ひいてるんじゃ?」
私は持てる全ての腕力で原村さんを押し退ける。
「いえ、そんなオカルト……」
原村さんの顔色はお世辞にも良いとは言えない。
「オカルトでもなんでもないよ……やっぱり今日の原村さんちょっとおかしい」
「おかっ……ひどいです。私、おかしくなんかないです!」
いきなり声を荒げて反論してきたので、私はびっくりしつつも、なんとかなだめようと彼女の手を握る。
「お、落ち着いて、原村さん。ね?」
「私、もう帰ります!」
「へ?」
気がつけば、私は一人乱れたベッドの上で呆然とドアを見ていた。
次の日。
今朝は曇りだった。
湿気で本が少し傷みそうだったので、今日の川辺での読書タイムはなし。京ちゃんのお馬鹿な話しを聞いて、お昼ご飯を食べて、授業を終えて、いつものあの場所へ行く。
放課後の部室は閑散としていた。
部長から原村さんは風邪で休みだと聞かされた。
「風邪引いてて寒かったとか、人肌恋しくなったとか。甘えたい年頃なんじゃないの?」
服の袖を捲くりながら、部長が言い、
「いや、少し違うじゃろ」
眼鏡の端をずらしながら、染谷さんが牌を切る。
「じゃあ、どういうことですか?」
染谷さんがこちらを盗み見た。一瞬のことで表情はわからないが、彼女の手が軽やかに牌を掴んだ。
「自分で考えい」
この人も実はよくわかっていないのではないだろうか。そもそも、人の心の内を知るなんて、神の領域というやつだ。容易に踏み込めないのは仕方がないかもしれないと思う。
けれど、風邪だと知っていたのなら、もっと別の対処ができたかもしれない。あの時は、急に抱きついてきたものだからあまり気遣ってあげられなかった。ここで悔やんでも仕方ないのだけれど。
「気になるなら、お見舞いに行ってくるといいじょー」
そう言って、最後の一口となったタコスをたいらげる。
「そっか、そうだね」
良い提案だ。
「のどちゃんの家は大きいんだじょ。だから、そこの窓から見えるんだじぇ・・・これだぁ!」
振り返った窓には、
「赤い屋根の煙突付きの家ね。・・・それ、いただき!」
部長の声通りに街を眺める。おとぎ話のような、確かにそんな家があった。
「・・・あんな家あったんだ。けっこう、近いんですね。あ、京ちゃん席代わって、後よろしくね」
お茶汲みに徹していた彼の肩を軽く叩いて私は席を立つ。
「え、ちょ、おま?!」
「さあ、始めましょうか?」
後ろで京ちゃんの悲鳴が聞こえたが、気にせず部室を後にした。
お見舞いに何か買っていくべきだろうか。でも、きっとすでに色々用意されているに違いないのだろう。私の脳裏に浮かぶお姫様ベッド。高級そうなメロンが切り分けられている。クマのぬいぐるみの置いてある愛らしい家具。カーペットは白かピンクなんだろう。
うん、そんな気がする。一人、おかしくなって噴出した。
今思えば、彼女からああいう風に接してくることは珍しいことだった。どこかお嬢様然とした所があって、別に気位が高いって言うわけではないけれど、昨日のように友達同士でじゃれあうような事は一度もしてこなかったし、私自身積極的な方ではないから麻雀以外で関わるということをあまり考えていなかった。
自分の引っ込み思案な性格のせいで彼女の風邪を見抜けなった。そんな罪悪感。
少し、お見舞いに行きずらくなった。
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